古本屋まるちゃんの人生卑猥っす!

子供の頃からよく金縛りに遭った。僕の場合は、怖いものを見てしまう、といった感じのものではなく、多くは幻聴だった。

その大体が夜眠る直前で、初めは耳の奥あたりがザワザワとしてくる。あの感覚は言葉では説明できない。
経験から「あっ、金縛りの前兆だな」と頭では思うのだけど、身体が睡眠に向かっているので無意識にどんどん金縛りを迎えにいってしまう。

そしてそれはいきなりやってくる。「ドーーン!」と耳の奥で爆発音がすると同時に、1階で眠る父と母の「地震だ!」「逃げろ!」という幻の声が届く。必死に逃げようとするのだが身体が硬直してしまって動けない。頭はハッキリしているので、耳から知覚する地響きで様々なものが揺れているような気がし、それが夜の闇と混ざり合ってことさら恐怖を掻き立てる。
「ウ…ウウ…」とうめき声を上げつつ、それから1.2分ほどもがきながら金縛りの呪縛から逃れようと格闘する。
指一本でも動かせられればすぐに解放されるのだけど、それがなかなか難しい。やがて何とか身体の一部を動かすことに成功すると、今まで聞こえていた凄まじい耳鳴りは止み、何事もなかったように時が動き始める。
今でこそ回数は減ったものの、思春期は頻繁にこの金縛りに遭い、散々悩まされた。

金縛りは心霊現象とは切り離されて考えられている。僕自身のそれも、最初は霊感の発動なのかと疑ったが、やがてどうやら疲れている時に起きやすいということが経験を通して分かってきた。

知人に強い霊感を持った人がいて、その人が睡眠中に金縛りに遭うときは布団の上に乗られたり、目を覚ました瞬間に目の前に知らない人の顔があったりするらしい。僕の金縛りが子どもに見えるほど恐ろしい体験談だ。
その人は子どもの頃から万事そんな調子で、学校から家に帰ると新しい人がリビングに入り込んでいたり、外出したお母さんがたくさんの人を背負って連れて帰ってきてしまうのが見えたと話していた。
そんな経験もあり、その人は夜寝るときは必ず手足を布団から出さないようにしているらしい。
僕がなぜかと聞くと、「布団の外側から引っ張られると後々やっかいになる」と答えていた。一体何が厄介になるのか…恐ろしくてそれ以上聞けなかった。

「枕元に立つ」「虫の知らせ」という言葉があるけど、そういった場面にもよく立ち会ったらしい。
ルームシェアをしていた友人の母が危篤で、たまたまその友人が仕事に出かけていた時、その部屋に入院中のお母さんが訪ねてきた。その翌日、友達の母が亡くなったという知らせが病院から届いたという。

事件や事故現場にも敏感で、当時遠距離恋愛をしていたパートナーとのドライブ中、たまたま通りかかった施設で嫌な気配を感じ、「ここ、(事件とか事故とか)何かあった?」と運転していた相方に伝えるとびっくりされたという。
実はつい最近、その施設で死傷者がでる事故があったらしく、それからその人のパートナーの方は、相方に霊感が備わっていることを信じるようになったとのことだった。

その人によると、霊というのはどこにでもいるものなので特に気にしないで大丈夫、とのことだった。そんなこと言われると余計気になってしまうのだが。また、「死霊より生霊の方がやっかい」とも言っていて、源氏物語のお話を彷彿とさせるようで面白かったし、その人の生霊体験から他人から恨まれる人生は送りたくない、とも思った。

「見えてしまう人」というのはどこでも少なからずいるらしく、僕は昔から全く見えないのだけど幽霊の存在は信じている。夏になると怖い話や不思議な体験を聞きたくなるのは、たくさんの霊が帰ってくるお盆の時期が関係しているからなのだろうか。

そんな僕がヒヤリとした場面に出くわしたのは高校二年生の頃だった。
駅から自転車に乗り、一人で帰宅していた僕は、今は懐かしいMDウォークマンでその時に流行っていた「Kick The Can Crew」の曲を聴いていた。
腰パンをしながら危なっかしい運転で、バカにみたいにスピードを出して自転車を走らせていた。
やがて町の主要道路である国道に差し掛かった。ちょうど目の前の歩道の青信号が点滅していたので、チャンスと思い渡ろうとした、その時だった。
ウォークマンで聴いていた「Kick The Can Crew」の(確かMCUのパートだった)歌声が突然、「ヒイイイ!」と甲高く裏返ったのだ。

突然の奇声でうわっ!とビックリした僕は信号機の直前で急ブレーキをかけた。幸い歩道付近に人がいなかったのもあり、つんのめりながらも何とか転倒せずに足をつくことができた。
気づくと歩道の信号機は赤に変わり、目の前をビュンビュンと車が走り始めていた。
前のめりの状態で、両足をつきながら息を呑んだ僕は、「…何だったんだ今のは?」と思いながらフッと顔を上げると、思わず背筋がゾッと凍った。

目の前には(大きな道路でたまに見かける)ガードレールに手向けられた、真新しい菊の花が供えられていた。
夏本番。世界中がどんどん暑くなる中、ささやかな怖い話で少しでも冷涼な夏を過ごしたいものだ。

 

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