古本屋まるちゃんの人生卑猥っす!
仕事帰り。車を停めている契約駐車場で、いつも遊んでいる近所の男の子がいる。
肌の白い、くりくり頭の男子。朝見かけるといつも幼稚園の制服を着ているので、年は4,5歳くらいだろうか。お姉ちゃんと妹がいるらしく、3人でよくボール遊びをしたり、駐車場に寄ってくるねこを愛でたりしている。その様子をお母さんが見守っている。
車に乗り込み、疲れた身体をシートに預け、イグニッションキーを回す。そして遊んでいる子どもたちにぶつからないように、そろそろと車を前進させていく。
車が動き出すと、そばで見ていたお母さんが嬉しそうに、「お兄さん、車出るってよ!」と子どもたちに合図する。
するとその坊主頭の男の子が遊ぶ手を止め、駐車場の出口まで走り出し、表情の読めない顔をしながら僕を待ち構える。
そして出口まできた僕と目が合うと、夕日を背にハニかんだ顔で手を振って見送ってくれるのだ。彼の粋な計らいに、僕もわざとシブい顔を作りながら、しっかりと手を振り返す。一日の終わりの、僕たちだけのささやかな儀式だ。
仕事終わりの夕方に毎回訪れる友達のような、はたまた戦友のような、僕とその男の子の関係。くりくり頭の彼とは車外で話をしたこともなければ、お互いの名前も知らない。住んでる場所さえ分からない。年も30歳近く離れているだろう。でもいつからか、僕とその男の子の間には不思議な友情が流れていた。
小さな手を振り子のように左右にゆする彼の姿を見ると、一日が少しだけ救われた気がする。手を振られ、振り返すだけの仲だ。でもその瞬間だけは心が通じ合う。最近、振っていた手が敬礼の形に変わり、二人の絆はよりガッチリと強さを増した。敬礼、ピッ。
夕暮れの中、僕たちの儀式をいつも不思議そうに見守るお姉ちゃんと妹。ブロック塀に横たわる眠たげなねこ。そしてその近くで微笑むお母さんの姿も良い。
車窓から映る家族の風景に、ささやかながら加担できている自分自身が嬉しい。
この関係は、彼の成長と共にいずれ消え去っていくに違いないが、手を振ってくれるうちは返したい。期限付きの男同士の友情である。
日が傾く時間帯。僕とその男の子は今日も、その不思議な友情を確かめ合っている。