古本屋まるちゃんの人生卑猥っす!

翌朝。目が覚めて部屋を出、寝ぼけまなこでゲストハウスのバスルームに向かった。
バスルームのドアを開けた途端、異様な光景が目に飛び込んできた。

滞在していたゲストハウスのバスルームは広く、シャワー室とトイレ室がそれぞれ併設されていた。トイレは一つ一つのブースに区切られていたのだが、そのブースの一角から茶色く濁った汚水が溢れ、それがブースの隙間から漏れ出し、床の排水溝に向かって一直線に流れていたのだ。

洗面台に立ち、横並びで歯を磨いていた外国人観光客たちもその流れゆく汚水が気になるらしく、チラチラと排水溝を眺めながら顔をしかめている様子だった。
とても清潔なバスルームだったがゆえに、その異様な光景は余計に人の目を引いた。
前日の旅の疲れも快眠で癒え、何とも爽やかな朝を迎えていた僕の気分も、トイレのその凄惨な光景によって急速に萎えていった。

その汚水は、トイレを必要としている人間の進行方向を明らかに妨害していた。
用を足すためには、汚水の川を飛び越えなければならなかった。セーヌ川のように濁りきったその汚水川を、外国人の観光客たちがピョンピョンとジャンプして跨いでいた。
僕も彼らに倣ってカエルのように飛び跳ねた。飛び越えたあと、汚水川の源流となっている問題のトイレ室に恐る恐る目をやった。
開け放たれたドアの奥には真っ白な便器が鎮座しており、そいつがまるで生き物みたいに茶色の液体をゴボゴボと吐き出し続けていた。
便器の水面はぐるぐる渦を巻いていて何とも凄惨な状況だったのだが、どうやら何者かが巨大な便をドカンと放ってトイレを詰まらせ、便器ごと破壊してしまったということが分かってきた。

僕が中学生だった頃も、これとよく似た光景を目の当たりにした瞬間があった。
掃除の時間だった。突然トイレから友達の叫び声がしたので大急ぎで向かったら、到底考えられないレベルの大きさの便が、和式のトイレに突き刺さっていたのだ。
僕は、大声をあげたトイレ当番の友達と呆然としてしまった。誰がいつ放ったのか、という疑問もあったが、それよりも一体どうやったらこんな巨大な便を体内で生成できるのか、その点が不思議で仕方なかったという記憶がある。

昨夜、寝る前にゲストハウスのトイレに歯を磨きに来た時は何も起きていなかったので、おそらく深夜から明け方にかけての犯行なのだろう。
このゲストハウスは一階が巨大なバーになっており、そこで毎晩大勢の宿泊客が大騒ぎしながら飲み食いしているのを僕は見かけていたので、きっと夜中に暴飲暴食をして腹を一杯にしたやつらの仕業に違いないと思った。

結局、清掃スタッフさんの手によって、そのトイレの詰まりは日中のうちに無事解消された。が、それからというもの、この便器詰まらせ事件は僕のゲストハウス滞在中に毎朝発生するようになった。
朝、すっきりとした目覚めの後、トイレのドアを開けると、必ず何者かの巨大な便によって便器が破壊され、泥のような川が出来ていた。
「またかよ…」と悪態をつきながらその川をジャンプして飛び越え、奥のトイレで用を足す、という日々が続いた。

このビルのように大きいゲストハウスに、ビルのようにでかい便を放って便器を詰まらせる輩が平気な顔をして暮らしていると思うと、恐ろしくて震えた。散策に出、パリ市街を滔々と貫流するセーヌ川を眺めても、ゲストハウスのトイレの汚水川が甦ってきて、暗い気持ちになった。

しかし、中学生の時も決まってそうだったのだが、そういう風にしてトイレを破壊する人間の正体というのは、杳として知れないのだった。

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