古本屋まるちゃんの人生卑猥っす!

夜。ゲストハウスの自室に戻ると8時を過ぎていた。
素泊まりの宿だったので、夕飯用にと近くのスーパーでハムとチーズを挟んだサンドイッチにシーザーサラダ、ハイネケンの缶ビールを買ってベッドの上で食べた。

海外を旅する楽しみの一つとして、各地のスーパーマーケットを巡る楽しみがある。
そこで取り扱っている食べ物や飲み物を観察することで、その土地の特色や産業が見えてくる。
当たり前だが日本の市場とは一つ一つが全く違っていて、それを比較しながら買い進めるのが大変面白い。

フランスは、とにかくチーズやハム、そして海産物の種類が豊かだった。値段は高いものもあったが、これだけ新鮮な食材が豊富に手に入れば家での料理もかなり楽しめることだろう。

現地での食材事情が見えてくると、もし自分がそこに住んで生活した場合の妄想も捗る。
日本以外のどこか違う国に移り住むことになった時、僕が個人的にその国に望むことは食べ物の美味しさだろう。「食」が発達している国じゃないといやだ。
ご飯が美味しい日本に生まれたからだろうか。
現地のスーパーマーケットやマルシェを眺める限り、このフランスという国は僕の(賤しい)望みを叶えてくれそうでとてもワクワクした。

日本では手に入らない香り高いチーズが大量に販売されているので、どんなパスタを作ってもきっと美味しくできるだろうし(パスタの形状もバラエティ豊かで変化に富んでいる)、活きのいい海老や帆立貝、牡蠣は安価に手に入りそうなのでそれを元手にフランス料理を勉強しても楽しそうだ。

このフランス旅のあとも、南米にバックパッキングに行ったりドイツやスペインを訪れたりしたが、なんだかんだでどの国も、現地の食事情が色濃く反映する「スーパーマーケット」が思い出として強く残っている。
カートを押しながら、この国の、ここにある食材で今日はどんな美味しい料理が作れるだろうかと想像する。そうすると自然に腹が減ってくる。
健康的で文化的な生活だ。

旅をしながら滞在していたゲストハウスには必ずと言っていいほど共同のキッチンが備え付けられていたので、現地の食材を試し、また自分の料理の腕を上げる絶好のチャンスだった。
毎日日が暮れるまで知らない土地を探索し、帰りにスーパーや商店で自分の食べたい食材を買って帰る。
あるときは一人で調理して食べたり、あるときはたまたま同じ宿に滞在していた外国人バックパッカーの手料理をご馳走になり、寝る前に現地の安ビールを飲んでその日一日を終える。気ままな一人旅の、醍醐味の一つだった。
そんな生活をしていたら、いつの間にか料理を作るのが好きになってしまった。
大人になって自炊好きになったのは、こうした一連の海外放浪のおかげでもあると思う。
各地の様々なスーパーマーケットを見て、色んなキッチンで食べ物を作った経験は、単純に料理が楽しいものであることを僕に教えてくれた。

いわゆる観光旅行が苦手だった僕は、フランスを旅しながらパリの市井の暮らしに憧れた。長い人生の中で、万一パリに滞在できる幸運に恵まれたら、マルシェやスーパーで新鮮な食材を買い込み、アパルトマンのキッチンで心ゆくまで手料理を作るのがささやかな夢である。

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