古本屋まるちゃんの人生卑猥っす!
僕は今年で35歳になる。10年前、25歳の時に、35歳の人を見かけると「うわっ、35歳だって。オジサ〜ン」なんて思っていたけど、いつの間にか自分もそんな歳になってしまった。
35歳を目前にして、改めてこの歳を思う。果たして、35歳はオジサンなのだろうか。
普段は農作業に勤しんでいるからか、個人的には見た目も20代の頃とあまり変化ないと思っている。体力もまだ落ちない。逆に20代の頃よりついている気もする。
30代とは実に中途半端な年代だなあと感じる。もはや若者とは言えないが、かと言って完全究極的にオジサンである、というのもなんか違うように思う。
正式なオジサンとなる瞬間というものは、果たしてやってくるのだろうか。
農家として働いていると、70代、80代のおじいさんやおばあさんがビュンビュンと軽トラックを乗りこなし、元気に働いている姿を目にする。みんなまだ腰も曲がらず、現役を貫いている。
となりの町内に住んでいる、80代の農家のおじいさんは、最近20代のフィリピン人のオネエチャンと結婚した。生涯現役どころか生涯絶倫である!
年金を握りしめて向かった先のフィリピンパブで、おじいさんは恋に落ちたのか…フィリピン人のオネエチャンは日本での定住権が欲しかったのか…おじいさんの遺産目当てか…
などと色々と想像してしまうが、いつになっても恋をするというのは素晴らしいことである。
そのような心身ともに力強いおじいさんたちに囲まれると、「30代なんてまだ毛の生えた子どもだ!」といつも一笑に付される。ご高齢の方と一緒に仕事をすると、自分がいつまでも若々しいままでいられるんじゃないかという錯覚に陥るのだ。
農家のおじいさんたちが、お前まだ若いぞとチヤホヤしてくれるので、今のところ一向に歳を取った気がしない。
海外を旅している時は、よくオジサンのバックパッカーに出会った。
歳はだいたい50代くらいで、みんな一様に陽気だった。仕事や子育て、色々なしがらみから解放されたからなのか、とても楽しそうに旅をしていた。
一人旅という同じ境遇からか、孤独な匂いを敏感に嗅ぎつけるらしく、僕はよく彼らに話しかけられた。そして不思議と皆気が合った。
若い旅行者たちとは違い、彼らオジサンバックパッカーは自分の意志で、マイペースに旅を続けていた。誰と群れることもなく、一人でどんどん色んなところに出かける。そんな姿が素敵に格好良かった。
日本にいる、無駄に色気をムンムン発してくるちょいワルオジサンとは明確な差があった。ちょいワルオジサンは無教養で、全体的にスケベ心に支配されている気がする。自分が知っている範囲でしか動こうとせず、冒険しない。
あとゴルフとか大型商業施設でのショッピングとか好きそうな、アホなイメージ。
海外で出会ったオジサンバックパッカーは、知的で自由な大人の気配がした。一緒になったホステルでは、起き抜けにコーヒーを啜りながらその日の旅路を決めるためによく地図とにらめっこしていた。まるで少年の夏休みのようだった。
彼らはまた、良く本を読んでいた。僕が持っていった、日本語で書かれた小説を貸すと、「縦書きだし、どこから読んだらいいんだ!」ととても興奮していた。旅と読書は何であんなに相性がいいんだろうといつも思っていた。
旅の最中に、南米のコロンビアの山奥にあるオーガニックファームに行き、そこでボランティアをしたことがある。ボランティアワーカーたちはヨーロピアンの人間が多く、歳は30代前後と、みんな僕と歳が近かった。
そこにふらりと現れた孤高のオジサンバックパッカーがいた。
そのオジサンも、やはり50歳くらいのイギリス人で、イギリス人らしく「Tea?(紅茶飲むか?)」が口癖だった。
彼はある夜、僕たちに「クリベッジ」という、トランプを使った伝統的なカードゲームを伝授してくれた。
「シェイクスピア存命の時代からイギリスに伝わる、いにしえのゲームだぞ」
と誇らしげに話すおじさんの揺るぎない瞳からは、確かな説得力があった。
そのクリベッジというゲームはやたらとゲーム時間が長くて、中途半端な英語力の僕にはいまいちやり方がわからなかった。
しかし、偶然出会った若者に混ざって、大昔のカードゲームを教えてくれるオジサンの姿というものは、中々にスタイリッシュで格好良いものだなぁと見ていて微笑ましかった。
年上だからと変に偉ぶらず、若者と一緒になって遊びに興じる。その余裕さに、惹きつけられるものを感じた。
敬語がほとんどない文化の成せる技なのかもしれないが、年の離れた人たちが世代を超えて仲良くなる風景は、シンプルに良いものだった。
居酒屋なんかで、酔っ払って若者に絡み出し、説教やセクハラ発言をする日本のオジサンたちに見せてあげたい光景だった。
日本で年の離れた人たちが集まると、家族でもない限りロクなことが起きない。一緒にゲームをするどころではない。
一番の年長者を立てるために、一番の若輩者が犠牲になって、中間くらいの年の上司たちに小突き回されることがよくある。まるでテレビのバラエティ番組のような姿である。酒の席だと、そうしたことが特に頻繁に起こる。
僕自身も、よく飲みの席で会社の上司や知らないオジサンにダル絡みされ、せっかくの美味しいお酒やご飯が台無しになった経験がいっぱいある。
そう言った時、くだらないテレビ番組の演者をやらされているようで、日本のこういった悪習は、すぐにでも滅ぶべきだ、ついでにこの酒臭いオジサンたちも皆滅ぶべきだといつも思っていた。
日本には、このような教養のない無能なオジサンたちに散々どつき回され、自信をなくしていく若者がたくさんいる。
海外を旅して思ったのが、そう言ったカッコいいオジサンは、何歳になっても少年のような冒険心を持っているということだった。
日本の居酒屋でエラそうに待ち構えるオジサンや、火遊び好きなちょいワルオジサンとは、圧倒的な民度の差を感じる。
30代という、何とも中途半端なタイミングで、今後目指すべきオジサンの姿を一度想像してみるのも面白いかもしれない。