古本屋まるちゃんの人生卑猥っす!

動画視聴サイトで、今話題の『東京リベンジャーズ』を少しだけ見た。
落ちぶれた大人に成り下がった元ヤンキーの主人公が、中学時代に付き合っていた彼女の死をきっかけに過去にタイムリープして、もう一度ヤンキー時代をやり直しながら大切なものを取り戻し、未来を変えていくお話。

地方の公立中学に通っていた僕の周りにも、このアニメに出てくるようないわゆるヤンキーたちが少なからずいた。
特に先輩ヤンキーたちは、当時の僕からしたら何よりおっかない存在だった。

始まりは小学6年生の三学期だった。二、三ヶ月後に中学入学を控えた僕はその日、クラスの友達たちと掃除の時間にたまたま学校外の道路の掃き掃除をしていた。
その時、下校途中のヤンキー中学生数名に出っくわした。入学予定の中学校は、小学校のすぐ近くに校舎があったので、彼ら中学生にとって小学校付近は帰り道だったのだ。

彼らは学ランをだらしなく着崩し、半分お尻が見えるんじゃないかと心配になるくらいズボンを下げていた。
そしてすぐに僕たちを取り囲み、ズボンのポケットに手を突っ込みながら「何だお前ら?」みたいなことを言ってきた。

「お前ら何年だ」と一人の背の高い不良学生が凄んできた。その人は僕たちにとって全く未体験の怖さと荒々しさを持っていて、僕ら小学生は完全に縮み上がってしまった。
「6年です」と僕の友達が答えると、
「おめえら、四月から絶対いじめてやっからな」と言われ、目の前で唾を吐かれた。
その中にいた馬鹿に襟足の長いヤンキーは、近くに立っていたガードレールを思い切り蹴飛ばした。「ゴン!」と凄まじい音がした。

僕たちは去っていく先輩ヤンキーの後ろ姿を眺めながら心底震え上がった。
「中学が今荒れているらしい」みたいな噂は以前から耳にしていたけど、僕たちは運悪く、その現実をその日目の当たりにしてしまったのだ。
突如として現れた理不尽な世界にめまいがした。そして中学校入学が誰よりも嫌になった。中学が鬼ヶ島にしか見えなかった。
そんな幕開けだった。

中学入学を果たすと、中三になった彼ら先輩ヤンキーたちが予想通り学校を支配していた。
新入生のための部活動紹介で暴れ、生徒集会で暴れ、日々の学校生活で一年生の校舎に度々乗り込んできた。

僕たち一年生は入学早々、息を殺したような生活を余儀なくされた。
当時は、世間的にもバブルがはじけてたくさんの会社が倒産していた時代だった。
世の中が大変なことになっていて、親も毎日暗い顔をしていた記憶があるけれど、僕たちは僕たちで学校で怖い先輩たちに目をつけられないよう、一日一日を生き延びるのに精一杯だった。

僕たちはそんな狭い世界で、三つの選択肢を迫られた。
息を潜めて生きるか、不良先輩たちに媚びへつらうか、目をつけられていじめられるか。

僕は運悪く、早々に目をつけられてしまった。
部活動見学の時の態度が生意気だったという言いがかりをつけられ、翌日その部活動の部長に廊下の片隅に呼び出されて、いきなり膝蹴りを食らわされた。あれはめちゃくちゃ怖かった。

ただ、僕は彼らより年上の兄が一人いて、兄の存在を知っていた他のヤンキー先輩がそのことを理由にその膝蹴り部長をなだめてくれたらしく、いじめに発展することはなかった。
兄がいるだけで事無きを得る、くだらない世界だった。

彼らは不良同士で徒党を組み、集団で押し寄せてくるから怖い。
夏はワイシャツの裾を学生服のズボンからだらしなく出し、ズボンを尻の半分くらいまでずり下げてパンツを見せびらかしていた。
冬は学ランのカラーを外して第二ボタンまで外し、裏ボタンはどこから仕入れたのかわからないピカピカ光るものに変更し、その裏ボタンには「龍」や「鬼」と言ったおどろおどろしい文字が描かれていた。

そう言ったヤンキー仕様に憧れを抱いた僕の同級生のマイルドヤンキーたちも、次第に学ランの第一ボタンを開け、特殊な裏ボタンを付けるようになっていった。
どこで調達したのか聞いてみると、その同級生は「あの〜君に貰ったんだぜ」と悪名高い先輩ヤンキーの名前を出して自慢してきた。
馬鹿なんだと思った。

中学時代はまた思春期でもあった。
中学に入って不良もたくさんいたけど、それと同じくらいきれいな女子の先輩たちがたくさんいた。
僕は同級生の友達と、人気のある女子の先輩についてあれこれ話すのが好きだったのだけど、そのキレイな先輩の一人が、実はあのおっかないヤンキー先輩と付き合っていて、どうやらセックスもしているらしいという情報を聞かされることもしばしばあった。
そんな時、僕はもう何が正しいのか全く分からなくなった。ひたすらヤンキー先輩たちが恐ろしく、また羨ましかった。

そう言った特ダネを仕入れてくるのも、なぜか友人のマイルドヤンキーたちだった。

大人になって良かったなと思うのは、もうこれ以上、ああいったおっかない存在に自分の大切な人生を脅かされないで済むんだということだ。
同時に、ソリの合わないマイルドヤンキーたちともおさらばできる。オトナは人間関係が選べる時点で最高なのだ。

嫌な奴には近づかない。職場で変な奴がいたらさっさと仕事を辞めればいい。
だけど子どもは中々そうもいかないのでかわいそうだ。

大人はお金の心配だけしていればいい。そう考えるとだいぶ楽じゃないか。

次の記事へ

前の記事へ

シリーズ「古本屋まるちゃんの人生卑猥っす!」の記事一覧