sioちゃんのかみなりおこし

初めましての方もそうでない方もこんにちは、sioと申します。
古本屋まるちゃんからバトンを受け継ぎ、10月からコラムを載せていただけることになりました。沼津の古本界を代表するビッグな先輩が繋いでくれたご縁を大切に書いていきたいと思います。ろたすのラーメンを食べながら、片手間に読んでいただけると嬉しいです。

初回ということで、私と『ラーメンろたす』の出会いについてお話しようと思います。

私が『ラーメンろたす』を知ったのは、京都の大学を卒業後、そのまま新卒の仕事に就いて激務&安月給のあまり体調を崩し、一年も持たずに辞めたことをきっかけに、実家の沼津に戻り「もう都会も関西も住みたくねえ~、お金はないけどやたら精神と身体が健全になってきた~」と思いブラブラしていた頃だった。誤解を招かないように言っておくと、私は関西、近畿圏が大好きだ。でも好きという気持ちと、自分の性質に合う合わないは別の話だったのを痛感したのだった。人生で一番休めなかったしひたすら辛かったのであまり記憶が残っていない。

そして、無職の才能がいくらあっても、そう長くない内にお金が尽きる。あゝ無情。

あらゆる手段で免除申請は出していたものの、さすがに税金を払うのもキツくなってきた頃、清掃会社で働いていた幼馴染から「今、人が足りないから働かない?」と声が掛かった。場所は熱海の下多賀の某ホテル。「下多賀ってどこ?」と思いつつ、どうにか公共交通機関で通えることがわかり、二つ返事で社会復帰を決めた。友達が社員として在籍しているから安心して働けそうだし、掃除なら黙々と働いて人とコミュニケーションを取らなくても許されそう、と感じたからだ。接客業なんて二度とやるものか、と思っていた。

下多賀に行くには、沼津駅から東京方面の電車に乗り、熱海駅で乗り換えて伊豆方面へ南下し一駅。無人の「伊豆多賀駅」で降り、激坂をくだり職場のホテルまで徒歩10分。幸い、行きも帰りもラッシュに当たらない時間だったのと、多賀エリアの有名すぎない観光地っぷりに、毎回小旅行気分の通勤タイムだった。

職場には自分よりも二回り、三回りほど年上の女性たちがいた。馴染めるか不安だったが、想像以上に優しく扱ってもらえて伸び伸びと働くことができた。ほとんどのメンバーは伊東出身で、「伊東の女は気が強いから嫁にするな」的な言い伝え(正確な文言は忘れてしまった)があることを、タバコをふかしながら教えてくれた。なかでもホテルの近所に住んでいたIさんは、見た目はお淑やかで植物と触れ合っているのが似合いそうな60代女性だったが、趣味は「パチンコ」と笑いながら話していて、そのギャップに心を鷲掴みにされた。もちろん喫煙者だった。「この辺は田舎だから、パチンコくらいしか娯楽がないのよ」と話す姿に、周りも頷いていた。

私が沼津から通っていることを話すと、皆一様に「ええっ!?わざわざ沼津から!?」と驚いていた。伊東で生まれ育ち、結婚し、子供を産み、離婚していたりしていなかったりな彼女たちからすると、沼津は日常的に触れる街ではなく、昔は栄えていた街、の印象で止まっていた。

そんな流れで待ち時間に和やかに談笑していたある時、一人の女性が質問を投げかけた。

「ラーメンろたすって行ったことある?美味しいのかな?」

行ったことない。お隣の清水町にある白っぽい、おしゃれな感じのラーメン屋だ。名前だけは知っている。

当時は車も持っていなかったし、何よりお金がなかったので外食とはもっぱら無縁になっていた。仕事を辞めてからは身体がパンとラーメンを受け付けなくなり、特にラーメンは年に1回食べるかどうかだった。おそらく、私が沼津から通っているから、その人なりに沼津方面で捻り出してくれた話題だったのだろう。しかし私は何にも答えられず「今後、自分がラーメンろたすに行くことなんてあるのだろうか。ラーメン屋を訪れる自分を想像できない」とぼんやり思いながら、「美味しいって聞いたことありますけどね~」と超適当に答えて話は終わった。

その後、どのタイミングで初めてラーメンろたすに行ったかは覚えていない。台湾まぜそばを食べて、そのおいしさと求めていた味に感動して、お腹をパンパンにしながら追いメシを食べたときの多幸感だけが記憶に残っている。

訪れれば必ずゴキゲンになって帰れる場所、それが私にとっての『ラーメンろたす』。満腹になったお腹をさすりながら扉を出て振り返った時に、店舗外観に大きく掲げられている「おいしいことしよう」というコピーを目にするたび、いい時間を過ごせたな、明日からもがんばろう、と思える。

清掃の仕事をしていた頃の自分に、「今、ラーメンろたすでコラムを書いているし、ge-cさんと普通に話してるし、なんならろたパで古本屋まるちゃんと3人でgreateful daysを歌ったよ」と言っても、信じてもらえないだろうな。意外性に満ちた楽しさが待っている人生、その要素の一つを与えてくれる『ラーメンろたす』は、こうやっていろんな人の人生にちょっとずつ幸せを与えているんだろうな。

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